120回-衆-予算委員会第二分科会-03号 1991/03/13

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股野政府委員/法務省入国管理局長 股野 景親君
佐野説明員 /厚生大臣官房政策課長 佐野 利昭君
野寺説明員 /労働省職業安定局雇用政策課長 野寺 康幸君
炭谷説明員 /厚生省社会局保護課長 炭谷  茂君
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○鳥居分科員
 不法滞在者というのはどうなっていますか。要するに、不法でありながら、現に日本国内にいるわけですね。そして起きてくるさまざまな出来事があるわけです。病気になる、あるいは死亡する。だから、まずどういう状況か。それから、病気になった、亡くなった、こういうときにだれが一体責任を持つのか。これは領事館なのか、地方自治体なのか、あるいは国なのか。いずれにしても対応をしなければならないわけですけれども、どういうふうにお考えですか。

○股野政府委員
 御指摘の不法滞在者、これは入管法所定の在留期間を超えて在留しておるという意味での、入管法違反者でございます。他方、しかしこういう方々が日本国内におられるという現実のもとで、その方たちの人権に対する配慮というものも、当然なければならないと考えております。
 そこで、入管当局といたしましては、法違反状態を是正するという必要がございますので、そういう観点からする法手続はきちんととる、またそのための関係各省との御協力もさせていただくということでございます。しかし、その入管法違反の状況を是正する過程におきましても、人権に対する配慮はきちんとしなければならない。そこで、ただいま委員御指摘の、例えば労災があるときにはその労災に対する対応はきちんとなされるべきであり、そのために必要な時間を入管当局としても、例えば入管法の法手続の中で設けるといった配慮をいたしておるところでございます。

○佐野説明員
 病気になった方々の場合のお尋ねでございましたが、大変申しわけございませんが、現在の我が国の法令上は、御承知のように適法に日本に在住される方につきましては、これは国籍を問わず、内外人平等の原則に従いまして、日本の各種社会保障法令の適用を受けられるわけでございますけれども、不法滞在あるいは不法入国という形でお入りになった方につきましては、それが判明いたしますと、出入国管理及び難民認定法等の手続に基づきまして、強制退去等の手続をとられることになるのではないかと承知いたしております。そのような形からいたしますと、そういう不法滞在あるいは不法入国という形になっている方々を対象にしまして医療保障の制度を別個の法体系でつくることは、極めて困難な状態ではなかろうか、こう思っております。

○鳥居分科員
 労災の立場で救済ができるのでしょうか。労働省、見えていますね。

○野寺説明員
 労災保険は、保険の仕組みが事業主負担によります保険料で賄っております。したがいまして、本人が不法であるかどうかを問わず、事業主がそれを使っている、そして事故が起こったということにつきまして、事業主の責任でこれを負担するという制度でございます。したがいまして、不法就労者である外国人にも、事故があれば適用することになるわけでございます。

○鳥居分科員
 だから、入管法違反であることはけしからぬ事実だと思いますが、しかし、人権は尊重しなければならない、労働災害の面からは救済ができる、しかし厚生省の、いわゆる疾病に関しては見て見ないふりをする、こういう状況ですね。
 明治にできた、いわゆる行き倒れ取扱法という法律がありますね、行旅病人及行旅死亡人取扱法。これは外国人、今一つの例として不法滞在者、まあ法的には不法という立場かもしれませんが、そういう不幸な事態になったときのこの法律のかかわり、これはどういうふうに考えたらいいですか。

○炭谷説明員
 行旅病人取扱法は、今先生御指摘のように明治三十二年にできた大変古い法律でございます。この法律の対象にいたしております行旅病人という範囲につきましては、旅行中にいわゆる行き倒れになったという病気の人に対して、他に助ける人がいないという場合を対象にしておるわけでございまして、先生御指摘のような外国人に対しても適用になろうかと思いますけれども、ただ、範囲が非常に狭うございますので、一般的な不法労働者の医療問題の解決にはつながらないのじゃないだろうかと思います。

○鳥居分科員
 都立病院が東京都内にありますね。全部で七カ所というお話ですが、都立病院で取り扱った――医師法からいって、人道上診療しないわけにいきません。単純労働者だからという差別は医療の場合にはない。これをやる。しかし医療費の負担ができない。健康保険がないために本人全額負担。そういう中で病院がしわ寄せを受けているわけですよ。都立病院だけで焦げつきが三千万円を超えたそうですね。だから、こういう実態をいつまでも放置できないだろうと思うわけです。何らかの手だてをとる必要があるのではないか。
 三カ月以上滞在という、いわゆる一定期間滞在する方の健康保険というのはあるのだろうと思いますが、短期滞在、不法という形にしている間は、こういう制度をつくったとしても対象にはなり得ないのだろうと思うのですが、合法的に滞在をされている短期の方、この皆さんに医療の上で制度をつくるべきじゃないですか。現在ないですね。

○佐野説明員
 御指摘の点は、国民健康保険の適用が現在一年になっているという点につきまして、三カ月程度の在留でも適用したらどうかという御指摘ではなかろうかと思います。
 御承知のように社会保険の制度は、相互扶助の精神で、助け合いといいますか、保険料を納め、あるいは税金を納めて、その人たちの中で事故が生じた場合にお支払いをするという形の制度でございますので、やはり一定の生活の根拠を置いて、そこで滞在をするというような形の実績を持たないと、そこで対象にするのは非常に難しかろうかと思うわけでございます。これを、現在でありますと、例えば住民税の納税義務などが生じますのも一年間の居住要件というようなこともございますので、現在は一年の居住要件を課しているわけでございますけれども、これも、一年を超えるということが見込まれておれば、別に一年以内であっても適用はいたしているわけでございますので、実態といたしまして、例えば三カ月くらいのビザでお見えになったケースでありましても、例えば研修だとか就学などであっても、それが研修カリキュラムや何かで一年を超えるような滞在になるということが明確に見込まれる場合は、適用の対象にいたしております。
 そういう面からいいますと、先生の御懸念のような対象者はこれでほぼ救われるのではなかろうか、やはり問題は、不法就労というような形でそもそも法に入ってこないような方々の問題ではなかろうかというふうに感じるわけでございます。

○鳥居分科員
 それは健康保険の問題ですね。
 それから生活保護という立場で、何とかならないものなんだろうか。自治体はこれまで、生活保護の面から、滞在している非常に貧困な外国人に対する手だてをとってきているわけです。ところが、ある時点で厚生省がこれはまかりならぬということで、生活保護、生活保障という面からは今できてない状況なんですね。これはどういうことなんですか。

○炭谷説明員
 生活保護につきましては、法律上は日本国民ということになっておりますけれども、予算措置におきまして、日本国民と同様な生活形態をとっていらっしゃる、永住者などの方々に対しましては適用しているところでございます。しかしながら、生活保護の目的でございます最低生活の保障、または自立の助長を目的とするという制度でございますから、観光ビザで入国して就労されているというような方につきましては、このような目的と矛盾するわけでございますので、生活保護の適用はないものと考えております。
 また、生活保護の原理原則でございます、補足性の原理というものがございます。まず生活保護を受けるに当たっては資産、扶養を求める、また、稼働能力のある人は稼働能力の活用を求めるという、補足性の原理があるわけでございますので、一般的にこのような外国人の方々に対してこのようなことを求めることは事実上極めて難しいのじゃないだろうかということで、生活保護の適用をしておらないわけでございます。
 このような方針は、生活保護制度の目的、趣旨からくるわけでございまして、発足以来の方針でございまして、最近になってこの方針を変えたというものではございません。

○鳥居分科員
 ちょっと別な角度から伺いたいと思うのです。
 昨年末国連で外国人労働者権利保護条約、これが成立をいたしました。我が国のとった立場は消極的賛成、反対したりボイコットしたり、そういうのはなかったそうですけれども、まず認めざるを得ないという立場だったのだろうと思うのです。
 内容は、外国人労働者に対してその国の国民と同等の労働条件あるいは社会保障を認めようとするねらい、それが主な内容で、国内の状況を考えますと、この新条約がねらいとするもの、これとかなりの面で対立をしているわけです。厚生省としてはこの新条約をどういうふうに受けとめていますか。

○佐野説明員
 条約につきましては、本来外務省の方の所管に属しますから、私どもの方でお答えするのは非常に難しいわけでございますけれども、御承知のように、この条約が国連で採択されましたときに、日本はこの条約につきまして特別に賛成をしているわけではございませんけれども、反対もしなかったということで、その立場説明というものを行っておりまして、その中では、条約は各国が、特に労働者の送り出し国のみならず、その受け入れ国にも受け入れられるような、現実的弾力的な内容であるべきであるということをお願いをいたしております。したがいまして、現在のこの条約で出ております内容そのままで私どもの国内法を改正したりなんかしてやることは、なかなか難しいのではなかろうかと思うわけでございますけれども、いずれにいたしましても、これは政府全体で、外務省を中心といたしましてですけれども、その内容を十分慎重に検討する必要があると考えておるわけでございます。

○鳥居分科員
 国際化の時代にふさわしい経済大国日本、こういう責務が各方面で検討されなければならない課題だと思うわけです。ぜひ充実を期し、新条約の方向に沿った国内法整備ができるように御努力いただきたいと思うのです。


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