120回-参-社会労働委員会-04号 1991/03/26
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政府委員(熊代昭彦君)/厚生大臣官房総務審議官 熊代 昭彦君
政府委員(末次彬君) /厚生省社会局長 末次 彬君
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○堀利和君
それでは次に、不法在留外国人の医療費の問題についてお伺いしたいと思います。これは最近特に大きな問題にもなってきておりますけれども、東京を初め不法在留外国人の緊急入院あるいは治療を受けた際の医療費をめぐりまして問題が起きていることは、当然厚生省としてはその実態を把握しているかと思うんですけれども、それをまずお伺いしたいと思います。
○政府委員(熊代昭彦君)
いわゆる不法滞在外国人の医療費問題でございますけれども、診療に当たりまして医療費の支払いが困難であるとか、医療費を支払う前に、言葉は悪いんですが逃亡されるとか、そういう実態等もあるという話とかいろいろ御報告は受けております。不法就労者でございますので、概念上どれくらいその数がいるかということははっきりわからないわけでありますが、一応十万人前後ではないかというようなことで言われておりますけれども、その医療費問題、特に適法でありまして一年以上滞在予定とか、あるいは適法でありまして常時雇用の形態でいるという場合は医療保障は十全でございますけれども、そうでない場合、医療問題があるということは十分承知いたしております。
○堀利和君
特に昨年の七月に、これまで東京都あるいは区の方でやむを得ず生活保護を適用していたということに対して、それを禁止するような形で厚生省が見解といいますか、そういった指示をしたというふうに聞いていますけれども、これは昨年の六月に入管法が改正され施行された、当然在留資格が整理されたわけですが、こういったことが大きく影響しての事態の変化なんでしょうか。
○政府委員(末次彬君)
委員御承知のとおり、生活保護は生活困窮者に対しましてその生活の面倒を見ると同時に自立を促進するという観点で対応しているわけでございます。したがいまして、これにつきましては、いろいろ本人の生活状況のみならず、本人を取り巻く関係者といいますか親族といいますか、また財産そのものにつきましても十分検討の上対応するということになっておるわけでございますが、不法滞在の外国人につきましては、こういった自立の促進でございますとかあるいは関係者、親族の状況、それから財産の状況、こういった状況が把握できないわけでございまして、そもそも生活保護の対象にはならないんではないかというふうに考えております。
○堀利和君
生活保護の対象にはならないという点については私も、いろいろ勉強させていただいた上、結論としては同じところに落ちついたわけなんですね。つまり生活保護の対象というのは日本国民に限らざるを得ないわけです。憲法二十五条に言う「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」、つまり「すべて国民は、」ということになるわけですね。そういう点では、いわゆる外国人の場合にはそれはどうしても当てはまらないということは、もうある意味で当然のことだろうと思うんです。
少し調べさせていただきましたら、昭和二十九年に局長通達というのが出ておりました。これは戦前朝鮮、台湾を日本が併合して、朝鮮・韓国人あるいは台湾人の方々がそれまで日本国籍を持っておったわけですけれども、敗戦、戦後に伴って国籍を離脱するということで、そういった方々の中には生活保護を受けていた方がいらっしゃったわけです。そういった方々のことを考え、昭和二十七年の平和条約を含めて、二十九年にきちんと整理した形で、こういった在日朝鮮・韓国人あるいは中国人に対しては、永住権、永住者として生活保護法を日本国民同様に準用していくというようになったということのようなんですね。これをこれまでさらに拡大解釈して、いわゆる不法在留外国人の方にも適用したということがあったようなんですけれども、確かに実際これは無理な話といいますか無理な論理だろうと思うわけでございます。
そういう点で、生活保護による不法在留外国人の医療費の問題を解決するというのは、なかなか難しいというふうに私も認識しております。しかし、日本が国際社会に対して貢献するということ、経済大国として国際的な地位を築いていく上でも、いわゆる経済難民と言われる方々、こういう方々に対して放置していいのかということがあろうかと思うんです。さきの湾岸戦争でも、戦争の被災者、難民問題が大きく政治問題にもなりましたけれども、同様に国内法を見て無理だからといって放置するというのも私はどうかなと思っておるわけです。
そこで、生活保護ということから言えば、厚生省の見解と私も一致するわけですので、そこを準用するのはなかなか難しい。そうなると、ほかに何かないかなということでちょっと勉強させていただいて、これはどうかなというのが一、二あるんです。
それで、御見解をお伺いしたいんですけれども、社会福祉事業法の第二条の三項の五というところに「生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業」というのがございます。これはなかなか全国一律にこういった事業を実施する病院がないということも存じております。東京あたりですと結構集中して病院がありますけれども、これは何とかその辺運用ができないでしょうか。
○政府委員(末次彬君)
ただいまお挙げになられました社会福祉事業法におきます無料、低額診療事業でございますが、これはいわゆる医療保険の皆保険の体制が整う前の段階で非常に重要な意味を持っておったわけでございますが、現在皆保険が達成されまして、事実上この事業につきましてはややその使命について見直すべきではないかというような御意見もございまして、現在までのところ委員御指摘のとおり未設置の県もかなり多数に上っているというようなことでございまして、この事業でもってこの問題に対処するということはなかなか難しいのではないかというふうに考えております。
○堀利和君
これは大変大きな問題だと思うんですね。不法在留外国人の医療費の問題というのは、一厚生省で本質的な解決を見るような問題ではないと思うんです。もう政府挙げての大きな問題だと思うんですね。ただ私は、そういった大きな問題はまだまだ結論も出ていませんし、当委員会ではとても審議するような内容でもないものですから、何とか厚生省の権限の中でできないものかということでいろいろ御見解をお伺いしているわけです。
もう一つ、これはどうかなということなんですけれども、行旅病人及行旅死亡人取扱法、これは古くて明治三十二年制定の法律ですので、果たして現在今日にこれが合うかどうかということは疑問は多くあるんです。ただ、生活保護法のように属人法、つまり「すべて国民は」ということで国民を対象としたものではなくて、この法律は属地法ということで、日本国内における外国人であろうと行旅病人あるいは行旅死亡人の方についての取り扱いというふうになるわけです。十七条では外国人のことも触れております。この辺のところは確かに明治三十二年の法律でもあり、余り一般的ではないということではありますのでなかなか難しいかと思いますけれども、この辺についての御見解はどうでしょうか。
○政府委員(末次彬君)
行旅病人及行旅死亡人取扱法、これによりまして歩行に耐えない行旅中の病人で療養の道がなくかつ救護者がない者、こういった方につきましては市町村が救護し、その費用は本人またはその扶養義務者が負担する、それができないときは都道府県が弁償するというような規定が置かれております。この法律の事務は現在団体委任事務ということになっておりまして、地方公共団体の責任において実施されるということになっております。
ここで言います行旅病人の範囲でございますが、これは法律に今申し上げましたようにはっきり書かれておりまして、いわゆる旅行中の行き倒れの病人に限定されるということになっておりまして、倒えばアパートあるいは職場等で発病されたような外国人につきましてはいわゆる行旅病人には該当しないということになっておりまして、不法滞在外国人につきましては通常この対象外になるというふうに考えております。
○堀利和君
確かにそういった対象範囲の問題はあろうかと思うんです。ですから、これを適用するというのはなかなか難しいと思いますけれども、もう少しお話を進めさせていただきます。
成田に着かれた外国人の方が入国手続をまだする前あるいはした直後か、そのときに病気なりになられた方がこの法律に基づいて医療を受けているというふうに聞いているんですね。そういうことからいえば、昭和六十二年に団体委任事務ということで確定したわけですから、その費用は千葉県が出しているだろうと思うんです。この成田空港でのこういったことについてはその実態を把握されていますでしょうか。
○政府委員(末次彬君)
個別の事例については特段私ども団体委任事務であることもございまして報告を求めたわけではございませんが、一般的な状況については承っております。
○堀利和君
そこで、私は、対象範囲の問題等もございますけれども、何とか国内法でこの緊急事態に対して手だてをしなければならないだろうと思うんですね。したがいまして、全く法理論上不可能な生活保護というのは無理であっても、社会福祉事業法を含めて、行旅病人の法律も含めて、一部を変えることで緊急措置として何とかならないものかというふうに思うわけです。基本的な対策についてはそれはそれとして、とにかくことし来年という緊急避難的な措置としてこれを十分お考えいただきたい。そして、行旅病人の法律については団体委任事務であっても外国人に関しては国が費用を負担するということもやろうと思えばできますし、あるいは病気なりけがに対して完全に治すところまでしなくてもいいと思うんです。つまり本国へ帰国できる程度に治ればいいと思うんです。完全に治してあげられれば一番いいんですけれども、そこまではやはり自国、本国がすべて責任持つことですから、そこまで日本政府が責任持つ必要はないと思いますので、そういったところで何とか御検討をお願いしておきたいと思います。
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