123回-衆-地方行政委員会-03号 1992/03/10

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亀田説明員/厚生省社会局庶務課長 亀田 克彦君
酒井説明員/厚生省社会局保護課長 酒井 英幸君
大久保説明員/法務省入国管理局警備課長 大久保慶一君
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○小林(守)委員
 それでは次に、外国人に対する人道的支援という問題に移りたいと思います。人道的支援といっても、医療費の問題にかかわりまして、特に行政の谷間というふうにも言われております不法滞在の外国人に対する医療費の支払いの問題について触れてみたい、そのように思っておるところでございます。
 外国人労働者の増加に伴いまして、不慮の事故や病気ということで医療費をめぐる問題が各地で発生をしまして、大きな社会問題になっているところでございます。特に、お話のように問題なのは、不法就労、不法滞在の外国人の医療費の支払いの問題であります。医療保険に入っていないということになります、また入れないということになりますので、払えない、そして、実際には病院の負担になっている、焦げついてしまっているというようなケースが多いわけであります。
 しかし、もう一方で考えまするならば、このようにいや応なく国際化する日本の社会というような状況の中で、身近なところに外国人が生活をしている、路上でも行き会うというような環境になってきているわけであります。しかし、たとえ不法滞在者であろうと、例えば生き死ににかかわるような、命にかかわるような大けがをしているとか病気になっているというような方に直接目の前で会ってしまうならば、どういう不法なあり方であろうと、やはり人道的な立場からは放置しておくことはできない、こういう自然の人間的な感情が生まれるのも当たり前のことだろうと思います。しかし、法律制度的には、それに手を差し伸べる手段が今のところないというところに大きな問題を醸しているのではないかというふうに思います。
 そういうことになりますと、民間のボランティア等の団体の人たちが、支援をする会とかそういう会を結成して独自にカンパ活動等を行って、医療費に対するささやかな支援とかそういうことを行っているというようなことをよく新聞等で見聞きするところでございます。
 実は、昨年の五月、我が栃木県の宇都宮市におきましてもこのような問題がございまして、タイ人の女性で三十四歳のノーイさんという方なんだそうですが、不法滞在の外国人でございまして、何かの関係でビルから飛びおり自殺を行った。しかし、未遂というかそういうことに終わりまして、大けがをしたわけであります。肋骨を骨折し、また右大腿骨の複雑骨折ということで、全治六カ月以上の重傷だというような形で、救急指定病院に運ばれたわけでございます。実際のところ、病院の方としましても、このような大けがをしている方でありますから、この方が、後でわかったことですけれども、不法滞在だというようなこととか、パスポートが何か入国のときにブローカーみたいな人に取り上げられてしまったというようなことなんだそうですが、もちろんその大けがをしていた時点では所持金も全くないというようなことで、要は医療費の支払いを受けられる見込みが全くないわけなんですね。しかし、実際に指定病院では、だからといってその患者を拒否することはこれまたできないというのが医療法に定められているものではないかと思いますけれども、そういうことになりますとその医療費はだれが支払うのかというようなことで、救急病院として二カ月ほど預かってはいましたが、どうにもその医療費の支払いについて支払ってもらえる当てがないというような問題もございまして、当の救急医療病院では公的な病院に、済生会の宇都宮病院に転院してくれという形で打診をして、そちらに移ったというような経過があるわけであります。当の担ぎ込まれた救急指定医療病院では、市の方にとにかく請求はしてみるというようなことですが、市の方でも、支払う根拠というか支払える方法がないというようなことで、今滞っているというような状況であります。約七十万ぐらいの医療費が市に請求をされながら、その病院には払われていないというような状況になっております。また、新たに担ぎ込まれました済生会宇都宮病院につきましても、約六カ月ですか、六カ月近く預かって入院をさせておいて、治療そのものは終了して、あとはリハビリというような段階まで来たわけなんですが、やはり五百万近い費用負担について、もちろん本人からも、それからほかからももらえる当てがないということで、問題だということで何とか転院してほしいというような形で、あと一カ所別の、今度は鹿沼市内の病院の方に、リハビリを中心とした医療ということでその病院にも何とか受けてもらった。その病院も、医療費の支払いについては当てにできないけれどもというふうなことで、三カ月を限度にそれでは預かりましょうというようなことで預かってくれている。そして、何とか見通しがついて、タイに帰れるというような状況になったというふうに聞いているところでありますけれども、こういう医療費の問題を含めまして大変大きな問題にかかわっているわけであります。
 要は、このような問題について自治体の窓口、県、そして医療機関、それぞれが人道的な問題ということを重々わかりながら、なおかつ経費の負担の問題等について本当に悩みながら、どうやったらいいのかということを国の方にいろいろ打診をしてみても一向にその方策というものが見出されてないという現状ではなかろうかと思うのですが、これらの問題について、まず最初に、どのように認識をされているのか。厚生省になろうかと思いますが、国の問題状況に対する認識をお聞きしたいと思います。

○亀田説明員
 外国人の医療の問題でございますが、御案内のように日本国内に適法に居住する外国人につきましては、内外人平等の原則に立ちまして国籍を問わず所要の負担のもとに必要な医療が受けられる、こういう仕組みになってございます。しかしながら、我が国に不法に滞在する外国人につきましては、ただいま先生御指摘のように大変気の毒なケースがあろうかと思いますが、不法滞在が判明すれば出入国管理及び難民認定法の規定に基づき退去強制等の取り扱いの対象になる。また、医療補償を行うということになりますと、不法滞在を容認したりあるいは助長する、こういうような懸念も考えられます。そういうことから、大変申しわけございませんが、不法滞在を前提として医療補償を行うということは大変難しい問題であろうというふうに考えてございます。

○小林(守)委員
 そういうお話であるということはずっと変わりないわけなんですね。ただ問題は、病院は例えばその患者が不法滞在の外国人だからといってこれは治療、診療はできませんということはできるのですか。いかがですか。

○亀田説明員
 病院等の医療機関につきましては医師法の規定がございまして、経済上等の理由を根拠にしては診療行為拒否はできない、こういう規定があるというふうに承知をしております。

○小林(守)委員
 そうしますと、病院といえども企業でありますから経営を行っていくということになるのですが、要は、もらえない、医療費が請求しても支弁していただけないということで焦げつきが出てしまうということになりますと、やはり患者のたらい回しという問題が間違いなくこれから起こってくるのではないか、そういうふうに思うのです。それらに対する、焦げついてしまうような問題について厚生省ではどのように、診るなというふうには言えないはずでありますから、診て赤字が出た問題について、焦げついてしまった部分についてはどういうふうに処置をさせようとしているのか、まずその辺をお聞きしたいのです。

○亀田説明員
 現在の状態を申し上げますと、その診療を受けられた御本人あるいは扶養義務者、そういう関係の方にお願いをする、こういうことになろうかと考えておりますけれども、なかなか難しいケースもあろうかと思いますので、その辺どういう改善の方途があるのかいろいろ勉強しておる、こういう状況でございます。

○小林(守)委員
 ずっと前からその問題については厚生省の方でも研究課題として検討はされているのだろうと思いますが、できるだけ早くそういう問題について整備をしていただきたい、そのように思うところでありますし、希望したいと思います。
 またもう一つ、この問題に関連しまして、ボランティアが医療費の一部に使ってくれというような形でカンパ活動を行って、病院の焦げつき分の一部を緩和しようというような動きをとってきているところが多いわけでありますけれども、実はそのとき、市にしても県にしても、公的な扶助なり公的な支援はできないということが明確に出されてしまったわけであります。
 いろいろ考えてまいりますと、例えば、市町村にも県にも社会福祉協議会というものがございます。その中で最も公的な性格の少ないというか、準民間的な準公的な、そういう資金があるはずであります。今そういうふうにいうかどうかわかりませんが、善意銀行というような制度がございまして、要は、市民の有志、ボランティア等が、困った人に使ってくださいということで寄附などを受け入れるものとして善意銀行というものを設置して、例えばこのお金については障害者の施設に使ってくださいとか精薄の施設に使ってくださいとか、何らかの指定をされて寄附を受ける場合があります。その場合には当然速やかに指定された用途に使われるということになろうとは思うのですが、用途を指定されないで預託を受けるお金も随分あるはずなんですね。善意銀行に、困った人のために何か使ってくださいという形で預託を受けているものもたくさんあるはずであります。
 いろいろお聞きしますと、善意銀行というのはそういうことで返済を予定していない、もうくれてしまうというお金でございますから、そういうことを考えますと、たとえこれが不法在留の外国人だったとしても、本当に人道的な立場に立つならば、なおかつ市民ボランティアのカンパ活動が始まっているというようなことであれば、その団体の人たちが福祉協議会に何とかならないかというように相談に行ったときに、公的な資金としては法制度上できないけれども、例えば準公的な善意銀行の金だったら、市民からお預かりしている本当にわずかな部分だけれどもぜひ足しにしてくださいという形でできないものなのかどうか。
 善意銀行自身もできないという判断のもとに、実は社会福祉協議会の職員みずからが自腹を切ってカンパに応じる、善意銀行のお金は使うわけにいかないというように判断したのでしょう、しょうがないので自分自身の自腹からカンパ活動しましょうということで、福祉協議会の職員が協力をしてくれた、そんな仕組みがあるのです。市役所の福祉の職員も見るに見かねて、もちろん公的な生活保護の手続はできません、しかし自分の小遣いからカンパをする。そんなことを行ってきていることを見ますと、果たして日本の、最も柔軟に使えるはずの資金そのものの性格は何なんだ、何のための福祉なんだということを疑問に感じざるを得ない。
 あくまでこれは不法な方だからもとを正さない限りだめだというのは、余りにもお役所的な、建前的な仕組みなのではないかなと思います。ファジーな部分があっていいのではないか。そして一部には、一たんそういうことをやってしまうとそういう外国人がなだれ込んできたらどうするんだというような懸念の声もあったようでありますが、それもまたお役所的な発想なのではないか。あるうちは何とか手伝いましょうぐらいのファジーな部分があってもいいのではないか。もちろん公的なものでは困ります、公的な問題については別の角度から請求されるという問題もあるでしょうが、準民間的な、何にでもいいから困った人に使ってくださいというように預託されたものについては、使っても差し支えないのではないか。例えば、社会福祉協議会の善意銀行なら善意銀行の方の運営協議会の中でこういう問題についてぜひ議論をしてもらえないものかな、そんなふうに思った次第でありますが、この問題についてどのように判断をしていらっしゃるか、ちょっと御意見をお聞きしたいと思います。

○亀田説明員
 御指摘の善意銀行でございますけれども、全国的には大変まちまちでございまして、あるところもございますし、ないところもある。また、あるところにつきましても、ボランティアセンターの別称になっているところとそれからボランティアセンターの中にあるところと、いろいろまちまちでございます。ただ、この善意銀行あるいはボランティアセンターでございますが、この趣旨は、地域住民の社会福祉に関する理解と関心を深めるとともに、ボランティア活動の推進を図ることを目的として一般に設置をされております。また、その事業の一環といたしまして、お話しの地域住民の善意に基づく金品等について預託を受け、これを必要とする社会福祉施設や個人に払い出しを行う、こういうような仕事をいたしてございます。
 それで、この払い出しの仕方でございますけれども、一般的には先生からもお話がございましたように、預託者の具体的な使途の指定がある場合にはその指定に従って配分をする、また、具体的な使途の指定がない場合にも地域住民の善意が生かされるように、言葉をかえて言いますと、預託者の本当の意思に沿うように、そういう形で社会福祉協議会が自主的に配分をしておる、これが一般的だというふうに聞いております。
 先生御指摘のようなケースでございますけれども、私ども一般的な考え方あるいは一般的に申し上げまして、具体的な使途の指定を受けていない場合の預託金の使い道でございますが、この活動をあくまでも住民の善意に基づく民間組織でございます社会福祉協議会の自主的な活動、こういう形で行われておりますので、個々具体のケースについてどうするか、こういうことにつきましては、あくまでも社会福祉協議会が自主的に判断する、そういう事柄の問題ではなかろうかというふうに考えております。

○小林(守)委員
 確かに、こういう問題を想定していないというか、中でつくられてきたということがあるんでしょうが、新しいこのような問題状況に対して、従来から比較的ちょっと拡大をすれば、ちょっと解釈を変えていけば適用ができるような仕組みではないのかなという観点で問題提起をしていきたいなと思っているのですが、例えば、この善意銀行なんかについても、準公的なお金というか、実際は本当に民間的なお金なんですけれども、例えば、これを各県レベルぐらいに大きなものにするとか、全国レベルで、何というのですか財団法人的なものにして、そういうファジーな問題について、当面の緊急措置として駆け込み寺的なものとして支援ができるようなものがあってもいいのではないか。もちろん、外国人の労働行政とか入国管理局の行政、これらがしっかりとするというのが前提ですよね、前提ですけれども、なおかつ現実の方が先に進んじゃっているという問題、なおかつ人道上の問題は避けて通れないというようなものに対処する一つの便法というか、一つの弾力のある支援組織として例えばそういうものを拡大的に考えていってはどうかという一つとして提起をしてみたいなと思っているところであります。
 それから、もう一つは、行旅病人及行旅死亡人取扱法というのが明治三十二年にできた古い法律でありますけれども、この行旅病人というものを概念規定を見ますると、「行旅病人ト称スルハ歩行ニ堪ヘサル行旅中ノ病人ニシテ療養ノ途ヲ有セス且救護者ナキ者ヲ謂ヒ」というふうになっております。この行旅病人の中には、厚生省の通知によりまして、飢えにより歩行のできない者とか行旅中の妊産婦で手当てを要する者というようなものもこの行旅病人として含めますというような通知があるのです。
 自治体の職場でこういう問題についてたまにあるわけですけれども、この辺の行旅病人、行旅死亡人、これらについては法的な体系を見ますると、まさに内外人無差別で、要は身元がわからないということについて、とにかく死んでいる方については火葬にしてそれを公告して遺骨の引き取りを求めるというような手続をするわけですね。それから、病人についても、もちろん身元確認とか身元については第一義的には警察が見るんだけれども、これは役所がやはりその手続をしなさいというようになった時点で役所の責任として、病気の治療を受けさせたり、それからさまざまな看護をする法律になっているのです。これはまさに内外人平等の原則で行われている。明治三十二年につくられたにしてはびっくりするほど進んでいると言っちゃおかしいのですが、むしろ文明開化のころの法律として体裁をとったというような感じもするのですけれども、そういう点では死人に国境はないのですね。それから行旅の病人についても国境がないのです。そういう形で、どうしても身元がわからない人については自治体が、まず市町村が立てかえをしていて、そのお金についてどうしてももらえなければそれは都道府県が弁償するという仕組みになっているのですね。
 そういうことで、このようなことの仕組みが実際にあるということを考えますと、何とか不法滞在であろうと外国人の医療費の問題について方策があるのではないか、そんなふうな気がしてならないわけなんですが、これについて現行法の行旅病人の概念というのは、旅行中の者だというようなことで該当できないんだというような枠があるわけでありますけれども、これらについて何とかその枠を広げていくというか、そういう仕組みを考えていっていいのではないかと私は思っているのですが、いかがでしょうか。

○酒井説明員
 御説明させていただきます。
 今先生御指摘の通達でございます。確かに、飢えにより歩行できなくなった行旅者等々法律で定めております行旅病人、いわゆる旅行中の行き倒れになった病人の方でありますが、そういう人についての補足の説明をいたしておるわけでございますけれども、その通達の趣旨も、どういう行旅者であるかといったことを補足説明させていただいているわけでございまして、やはり行旅者かどうかということが必要になってくるわけでございまして、例えば、一定の地域に居を構えられてそこで働いておられるとか、そこで生活をされているとかいった生活圏を一つ形成をされている中で、このような不幸な、悲しいことであるわけなんでございますが、ことが起こった場合には、これはこの法律では、行旅つまり旅行中の出来事というふうにはなかなか言いがたいのではないかというふうな考え方で従来から来てございます。

○小林(守)委員
 この問題について、先ほど申しました外国人の医療費、人道的支援という角度に立った場合に、何とか従来の日本の仕組みの中で、制度の中で少し変えれば何とかなるのではないかというような要素のあるものを検討の対象として私は挙げてきているのですが、この行旅病人等については確かに法律の趣旨は旅行中の者だということになると、不法滞在外国人は旅行中とは確かに言えない。しかしながら、よく読んでみますると、かなり拡大的に読めるのではないかというような通知の内容ですね。厚生省が出している通知の内容でも、行旅病人の概念規定の中で、住所及び居所のない者とか、もしくは明らかでない者とか、こういうものもやはり行旅病人に、行旅者の中に入れていいんだというようなものも入っているようでありますから、むしろこういう解釈を厚生省が示しているわけですけれども、もうちょっと工夫があれば、新しい今日の状況の中で対応していこうというような姿勢があれば何か開けていくのではないかなと思えてならないのです。
 それで、昭和六十二年に、従来からこれは機関委任事務だったのですね、それが団体事務化されたわけなんですけれども、先ほども申しましたように、どうしても被救護者、救護された者の扶養義務者とか相続人とか、そういうものがどうしても見つからなくてその費用負担が受けられない、市町村がどうしても受けられない場合は、それについて都道府県が弁償するというふうになっています。その機関委任事務の時点では、都道府県が弁償した場合については国が当然何らかの措置として財政的に支援をしたのではないかと思うのですが、団体事務化になってその都道府県に対する国の責任というのはどういうふうに果たされているのかどうか、それをちょっと教えていただければありがたいと思います。

○酒井説明員
 御説明申し上げます。
 先生御指摘のように六十二年に団体事務化をされて、先ほどの通達もその際の通達であるわけでございますが、行旅の仕組みについては今先生がおっしゃったとおりでございますが、それの経費につきましては、現在財政上の措置といたしましては交付税で一応の経費が計上されておって、そういうものの中で対応をしていただいているという状況でございます。

○小林(守)委員
 今まさに大事なお話があったと思うのですよ。要は、交付税で内外人無差別に最終的にはこの問題について財政的な負担を国の責任としてやるという姿勢なんだと思うのですよ、行旅病人、死亡人に対してですね。そういうことが既に行われているということを考えますと、何らかの方策ができるのではないかと思えてならないのですけれども、交付税の基準財政需要額の問題等いろいろと論議がざれているところでありますが、むしろこういう問題についても、交付税の措置の中では国際交流、国際化のためのさまざまな交付税措置が導入されようとしておるわけでありますが、考え方によっては表の国際化、そういう形について取り上げられているのは結構だと思いますが、裏のシャドーの部分の国際化という問題だと思うのですね。そういう点で、ぜひ交付税も含めた何らかの方法、もちろんこれは、それが前面に出ていくこと自身いいとは思えないのですよ、入管局の行政とか労働者に対する労働行政とか、この問題をしっかりとやることが第一義的な問題だろうとは思うのですが、しかしなおかつ現実の問題としてこういうものが出てきているという問題については、やはり見捨てられない、放置できないという観点から考えていく必要があるのではないか、そのように強く思います。
 それでもう一つ、法務省の古いらっしゃっていると思いますのでお聞きしたいのですが、昨年の十月四日に、このタイのノーイさんが入院している先の病院の方に、本国送還を前提として本人に対して東京入管局は事情聴取を行ったというふうに報道されております。今日まで不法滞在には変わりないのですが、病院で治療してリハビリをしていて強制送還はされていない状況になっているということで、入管局としての何らかの特別措置がとられてきているのではないか、そのように思うわけでありますが、どのような行政措置がとられてきて今日まで、一応日本の国内に不法であるというのはわかっていても、滞在して病院でリハビリの治療を受けられているのか、その辺について御説明いただきたいと思います。
 それから、もう一点は、入管局として、こういう問題についてみずからの行政課題というか政策課題というか、入管局として第一義的に大きな問題を抱えているのだろうと思うのですけれども、これらに対して、これからどうしたらいいんだ、どう国として考えていったらいいのか、取り組んでいくのか、そういう問題を踏まえて、要は、入管局にも関係がある、厚生省にも関係がある、市町村、県にも関係がある、病院にも関係がある、それぞれの行政の中ですぽっと落ちてしまっているところなんですね。その問題で中心として主導権的に担っていかなければならないのはやはり法務省ではないのかな、そんなふうに私は思っているのですが、実際に本人に事情聴取をされた、本国送還を前提にしたということなのでありますが、どのような措置で今日までこのような形になってきているのかということと、これからの課題についてどのように認識されているのか、まとめとしてお聞きしたいなというふうに思います。

○大久保説明員
 お尋ねの件につきましてお答えします。
 法務省といたしましては、御存じのように、入管法違反者として不法労働者、不法残留者の退去強制手続をとっておりますが、入管当局の収容施設に収容中の者が病気にかかっていると認められる場合には最寄りの病院などで治療を受けさせております。
 先生の御質問ありましたような事情のある場合は、本来退去強制手続をとるべきではありますが、重傷を負っているとかそれから重い病気にかかっているというようなことで人道上直ちに退去強制手続をとるのが相当でないような事情がありました場合には、本人の治療状況などを考慮して、その手続を一時差し控えるなどの措置をとっており、事案に応じた適切な措置をとっております。
 今後につきましてどうするかという点でございますが、先ほどの御質問の中にございましたように関係省庁に多岐にわたる問題でございまして、入管だけが対処していくという問題ではございません。したがって、これらの諸般の事情を十分考慮しながら適切な対処を模索していきたい、このように考えております。

○小林(守)委員
 一つの事例をもとにいろいろな角度から、こんなふうにしてはどうかというようなことも踏まえながら、提案をしながら述べてきたわけでありますが、不法というようなことにどうしてもつまずいてしまって、その先に一歩なかなか出られないのが行政の現実なのではないかというふうに思いますが、目の前にそういう方がいたならば、どなたであろうとやはり何らかの措置をしなければならぬ、そういう気持ちになるのが極めて自然な人間の感情だろうと思うのですね。そういうふうなところを何とか行政的に支えられるような仕組みを今こそ、国際化社会の中で日本が一歩大人になっていく、なおかつそういうアジアの人たちに対して要は温かい国だと言われるような国になっていくための大きな試練なのではないかな、そのように思います。表だけの国際化ではなくて、先ほども申しましたとおり、シャドーの部分での国際化も極めて大切なものなのではないかということをつけ加えまして、終わりにしたいと思います。ありがとうございました。


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