123回-衆-法務委員会-07号 1992/04/14
---------------------------------------------
本間政府委員/法務大臣官房審議官 本間 達三君
粥川説明員 /厚生省健康政策局医事課長 粥川 正敏君
藤井説明員 /総務庁行政監察局監察官 藤井 昭夫君
高橋政府委員/法務省入国管理局長 高橋 雅二君
酒井説明員 /厚生省社会局保護課長 酒井 英幸君
吉澤説明員 /外務省国際連合局人権難民課長 吉澤 裕君
田原国務大臣/法務大臣 田原 隆君
---------------------------------------------
○草川委員
そこで、次に移りまして、今度はいわゆる不法残留、不法滞在の外国人の方々の医療費の支払いの問題を、これは法務省も含めて関係省庁にお伺いをしたい、こういうように思います。
実は、私は昨年の三月二十九日に不法滞在の外国人の医療費支払い等に関する質問主意書というのを出しました。この経過というのは、一昨年来、不法に残留をする、滞在をする外国人の方々の医療費の支払いをめぐるトラブルが非常に多いという話を聞きまして、それで実は昨年の予算委員会にこの問題を質問しようと思って準備をいたしました。
関係省庁の方々にいろいろなお話を聞きましたが、それは出口のない議論だからやめろ、こういう話になったのです。やめろというのはあけすけな話で申し上げたのですが、出口がない話なんだからどう言われても答弁のしょうがないんだという話なので、私ももう少し考えてみようと思いましたけれども、その後たくさんの事例が出てまいりまして、これはいけないというので質問主意書を出しましたが、そのときの答弁も出口がない、こういう状況になっておるわけであります。そこで、改めてそういうような状況ではこれはだめだ、一回どこかできちっと、いいものはいい、悪いものは悪い、できるものはできる、できないことはだめ、そして不法に残留する方々は、日本に来て医療費がただになるというような風潮があってもまた困るわけでございますので、お互いに知恵を出し合って対応を立てたいという意味で問題提起をしたいわけであります。
それで、私が直接聞いた例をちょっと申し上げたいと思うのです。
これは不法滞在者が昏睡状態になったわけです。ある民間病院に搬入をされました。その民間病院も、救急病人でございますからCTスキャナーをかけた。そうしたらクモ膜下出血、こういうことでございますので、緊急手術が必要となった。ところが、その病院では対応ができませんので救急車を呼んだ。これは地方自治体の救急車を呼んだわけです。この地方自治体の救急車で、いわゆる脳外科専門の救急病院に転送された。それで、その病院で動脈瘤によるクモ膜下出血の緊急手術を行ったというわけでございますが、ところがその患者の所持するのはパスポートだけで、治療費が支払われない。
そこで、出身国の在日公館に病院の方から連絡をしたところ、これは法務省よく聞いていただきたいのですが、その在日の公館は、ビザ切れを放置をした日本側の責任で我が国にとっては関係なし、こういうのが日本にあるその国の大使館の返事だったのです。どうしようもございませんから地方自治体に相談をする、といっても、もうだめだというお話。そこで仕方がないので、その病院が数百万円に上る治療費を引き受けている、こういうことでございます。
こういう例というのは、今東京都内でも、全国的にもたくさん出ているのです。新聞にもどんどん事例が報道されておるわけです。国際社会における日本の責任というのが非常に論じられているわけですが、このような問題を放置するということは極めて遺憾でありますし、人道的な立場に立つ行政が行われることが必要だと思うのでございます。
そういう立場からまず法務省に、短期滞在、研修などの在留資格で日本に入国をし、在留期間が切れても出国をしない不法滞在者というものが何名ぐらいいるのか、推定値をお聞かせ願いたいと思います。
○本間政府委員
不法滞在者の正確な数をつかむのは非常に難しゅうございますけれども、当局で入っております出入国カードの電算統計でございますが、これによって推計いたしますと、平成三年五月一日現在で、総数において約十六万人を数えておりまして――大変失礼いたしました。資格別に申し上げますと、短期滞在者は約十二万八千九百人でございます。率にしますと全体の八一%ぐらいになります。それから次に、数としては就学が多いのでございますが、一万三千五百名余りでございまして、率にして八・五%ぐらいになります。
○草川委員
そこで、今度は厚生省にお尋ねしますが、医師法第十九条には「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」こういうふうになっていますね。治療費を支払うことができない不法滞在者であることを理由に医師は診療を拒否できるのかどうか、お答え願いたいと思います。
○粥川説明員
お答えいたします。
先生御指摘のとおり、医師は、医師法第十九条第一項により、正当な事由がなければ患者からの診療の求めを拒んではならないとされております。何が正当な事由であるかは、それぞれの具体的な場合において社会通念上妥当と認められるかどうかによるべきでございますが、救急車により搬入された場合も含め、一般的には治療費を払うことができないこと、または不法滞在者であることのみを理由として診療を拒むことはできないものと考えております。
○草川委員
要するに、医療機関は制度上、国籍等により、あるいはまた不法滞在者であっても診療を拒否できない、こういうことになっていると思うのです。まして、今お話がありましたように自治体の救急車で運ばれた場合も含む、こういうことだと思うのです。
そこで、不法滞在者が治療費を支払うことができない場合は、本人にかわり支払う者がいない限り病院側の負担になるわけです。不法滞在者が急増する中、民間病院に負担を求めるだけではおのずから限界があると思うのでございますが、厚生省としては、不法残留の外国人の医療費未払いの現状をどのように把握しているのか、あるいはその金額は一体幾らぐらいになるのか、統計をとっておみえになるのか、お答えを願いたいと思います。
○粥川説明員
厚生省として特に統計をとってございませんが、不法滞在か否かにかかわらず、診療を受けた外国人が診療費を支払えず診療を行った医療機関が負担した事例につきましては、総務庁の行政監察の実態調査結果によりますと、平成二年四月から三年三月にかけて調査したものでございますが、五十六医療機関において診療を受けた外国人延べ千三百九十六人の中で、診療費が未払いとなった外国人は三十四名ということになっております。
○草川委員
厚生省として統計をとっていないということですが、不法滞在者の治療を行った場合の未払い、こういうことをこの際調査するお考えはありませんか、どうですか。お答え願いたいと思うのです。
○粥川説明員
御指摘の点を踏まえてちょっと検討してみたいと思います。
○草川委員
実態は実態として、ぜひ一度調査していただきたい、こういうように思います。
そこで、これは私、質問主意書のときに、そういう不法滞在者の治療を行う場合に民間病院では限界があるので国が受けたらどうだ、あるいは公的病院が受けたらどうだというようなことを言ったわけでございますが、当然、国は肩がわりをするわけにはいかない、こういう答弁になっておるわけでございます。民間の病院としては非常に強い不満があるわけですよ。要するに、民間病院に全部しわが寄っている。本来ならば、それはまた別な取り扱いがあってしかるべきではないか、診療を断ることが制度上できないわけですから。だから、ここを何とか我々としては解決できる方法を考えてみたいと思うのです。
そこで、先ほど厚生省の答弁の中で、外国人の就労に関する実態調査の結果報告、実態調査の結果に基づく勧告というのを総務庁がことし一月十五日に出しておりますね。これは不法滞在以外の一般外国人のことも含めてでございますが、医療の問題に絞って指導事項の概要を説明願いたい、こういうように思います。
○藤井説明員
お答えいたします。
ただいま厚生省の方からも御説明がありましたが、一つは、私ども今回調査を実施しました五十余りの医療機関で診療を受けた外国人は、平成二年度の一年間でおおむね千三百九十六人いたわけでございます。そのうちの七百四十四人、五三%ですが、これらの方々が公的医療保険の適用を受けていない。また、三十四人分の医療費が未収という状況があったわけでございます。
なお、蛇足でございますが、私どもの調査においては、これらの外国人が不法滞在者であったかどうかという区別をしての把握はやっておりません。
そのほかに、国保、健保、こういった制度も合法的に滞在していられる外国人の方々には適用することができる場合があるわけですが、そういった状況を調査しましたところ、外国人の国保の適用率が低い例が見られたとか、健保が未適になっている例があったとか、国保の適用の基準の一つでございますところの「一年以上滞在すると認められる者」というのがあるわけなんですが、その運用状況を調査しましたところ、入管局による在留期間の許可が一年未満であるというだけで国保を適用していないというような例も見られたということでございます。
このほかにも、言語、習慣の異なる外国人の方々が円滑に医療を受けられるというような観点から、地方公共団体、それから病院、こういったところにおける対応状況を調査しているわけですが、一部の地方公共団体では、既に外国語による診療可能な病院等の紹介パンフレットを作成しているというような先進的な例あるいは病院の中にも既に外国語による案内、通訳サービスを積極的に行っておられる、そういう例もあったということでございます。
こういった状況を踏まえまして、厚生省に対し、まず、外国人が円滑かつ適切に利用できる医療のあり方を検討していただきたいと申し上げますとともに、市町村における外国人登録部門等と連携することにより国保の適用対象者を的確に把握されて、外国人に対する国保の適用の適正化を図る、あるいは事業所においても健保の適用について周知、加入の推進が図られるよう都道府県を指導していただく、それから地方公共団体における外国人の対応が可能な医療機関等に関する外国語による各種情報サービス等、こういった好事例が出ておるわけでございますので、こういった好事例を収集されて、再度還元されるというようなことで支援をしていただきたいというようなことを勧告しているところでございます。
○草川委員
今総務庁の方の勧告というのですか実態調査が報告されましたが、これは不法残留であろうと許可されて入国されたところの外国人も含めた医療問題、医療費の未払いがある、こういう実態報告が出ておるわけです。だから、私は今、前半では不法滞在ということを申し上げましたが、診療機関側からすると、不法滞在ではなくて入国を許可された外国人の未払いも実はある、こういうことになるわけですから、実態はさらに深刻だということを言わざるを得ません。
そこで、問題は、これは自治体もあるわけでありますし、厚生行政もあるわけでありますし、法務省にも聞いてもらわなければいけませんし、外務省もあるわけですね。それぞれ縦割り行政ですから、縦割りの範囲内だけのお話になると現状に合わないという話になって、今申し上げましたように、そういう方々の診療というのはほとんど私的病院が引き受けざるを得ない。国公立が引き受けない、公的病院もなかなか引き受けない、こういうことになるわけなんで、それをどのようにしたらいいのかというので、実は昨日も、これは総理府が全体を統括するので総理府が答弁を引き受けてくれるのか、あるいは総務庁なのか、あるいは内閣なのか、いや、それは官房なのか、いるいろとやりましたが、結果として今私が申し上げた答弁を引き受けてくれるところは実はなかったのですよ。
そこで、私は、そんなばかなことはないじゃないかというので、答弁がなければないで問題提起をしなければいかぬということで、やっとけさ、内輪話をすると、内閣の方から法務省なり厚生省にしかるべき答弁をさせるということに実はなっておるのですよ。どういう答弁が今から出てくるかわかりませんけれども、厚生省、それから外務省も入っておりますが、いずれにしてもとりあえず厚生省と法務省、いわゆる許可されて滞在される外国人を含めた、不法残留者を含めた方々の医療費の未払い対策をどうするのか、この際、両省から御答弁を願いたい、こう思います。
○高橋政府委員
日本に来られている方々が不慮の病気、あるいは事故もございますけれども、そういうことになったときにどういうような待遇を受けるかということは、その人あるいはその国にとっても、日本のイメージにとっても非常に重要なことでございますので、私たちとしても非常に心を砕いておるところでございまして、私たちも外国へ行くときに何かの事故に遭ったり、けがをしたり、あるいは病気になったときに手厚くやっていただける、そういう待遇を受けて帰ればその国の印象がよくなるということもございます。そういう観点もございますけれども、他方、先ほど先生御指摘のとおり、日本に行って不法に残留して病気を治して帰ってくるということになっても、これは我が国の健全な社会の発展という観点から見ましても好ましいことではございませんので、いろいろケース・バイ・ケースで考えなければいけないかと思います。
一般的に言いますと、合法的にこちらに来られている方は、滞在期間が短い方は観光ということで大体保険をかけて来られる方が多いのじゃないかというふうに考えておりますし、また、こちらに留学とか研修で来られる方は保険に入ることを私たちも勧奨しておりまして、特に研修で来られる方は研修用の保険制度がございまして、そういうものでカバーされるというようなことを確保するようにしておるところでございます。
問題は、不法に残留したり、不法に就労している方々でございまして、これは不法であるだけに、これを法的に、合法的に救うというのはなかなか難しいところがございます。
それで、法務省の入管として、今不法就労あるいは不法に残留している人たちの医療についてどういうようなケースが我々の所管しているところに入ってくるかと申しますと、例えば不法に残留して強制退去の手続の過程にある人がいますと、そういう人たちを強制退去の前に収容するわけですけれども、そのときに病気であるということがわかりましたら、最寄りの病院等で治療を受けさせるということで健康管理に気を使っているわけでございます。
また、強制退去手続になった人が非常に重病ですぐ帰すには耐えられないという場合には、人道的な配慮から、直接帰すということはしないで滞在を認めるというようなことで、事案に応じて適切に対処しているところでございます。ただ、費用の点について言いますと、個人が持っているお金で払える場合には払っていただきますけれども、どうしても払えない場合には、我々の強制手続の中に入っている場合には、少ない予算でございますけれども、若干国費で面倒を見るというシステムもございます。
こういう不法就労者の医療問題につきましては、いろいろなケースがあって難しい問題を含んでおりますが、必要に応じまして関係機関と連絡を十分にとって適切に対処していきたいと考えておるところでございます。
○草川委員
偽った資格で入国をすること自身がその国を軽んずることになるわけですね。あるいはまた、外国人労働者を安易に雇うという事態を実質上安易に認めてしまっておるという日本の経済界の体質自身にも責任があると思うのです。だから、ここで入管を責めても問題があると思うのですが、現実にしわが寄っているわけですから、何らかの対応を立てなければいかぬと思うのです。
たまたま東京都がようやくしびれを切らして、名前は悪いのですが、行き倒れの方々を救済するという非常に古い法律を二十二年ぶりに復活して適用しようというようなことが言われておるわけでございますが、そのようなことも含めて厚生省はどのようなお考えか、お伺いをしたいと思います。
○酒井説明員
お答え申し上げます。
行旅法の問題でございます。今先生おっしゃいましたように、大変古い法律でございます。先生御案内のように、行旅法は旅の途中の行き倒れの病人あるいは死亡人の方を対象とするわけでございまして、私どもざっくばらんに言いますと、いわゆる不法就労あるいは不法滞在の外国人の方のために正面から適用できる法律ではないと思うわけでありますが、旅の途中で行き倒れた場合であるかどうかという要件に照らしまして、それに該当する場合には適用し得る場合があるという限定的なものであるわけでございます。今申し上げましたように、適用絶無ではないわけでございますが、そういう限定的なものでございまして、東京都におかれましても以上の点は踏まえながら検討はされていくものと思いますけれども、私どもは現在詳細なことを伺っておりませんで、当面、その状況を見守っていくことになろうかと思っている次第でございます。
○草川委員
もう一度質問しますが、特にこの東京都のお考えは否定をしませんね。もう一度御答弁願いたいと思います。
○酒井説明員
答弁を繰り返して恐縮でございますが、まだ詳細なことは聞いておりませんし、また東京都もまだ検討されているやにも聞いておりますので、とにもかくにもしばらくその状況を見守りたいということでございます。
○草川委員
長々とこの問題を取り上げておりますが、そう簡単に出口のある話ではない、しかし現実は非常に深刻だ、こういうことから申し上げておるので、限定的に厳しく取り扱うということは結構でございますが、一つの問題解決の方向だと思うので、ぜひこれを十分参考にしていただいて、とりあえずの対応をしていただきたいと思います。
そこで、外務省にもう一問。一昨年十二月、国連はすべての移住労働者及びその家族の権利保護に関する国際条約を採択しておるわけでございますが、これは発展途上国等の非常に強い要望もこれあり、先進国の方としてはかなり抵抗があったと聞いておりますけれども、一応これは採択されておるわけでございますので、この種のものはいずれにしても展開をしてくるわけでございます。今のようなこともこれに合致する一つの方向ではないかと思うのですが、この国連の条約の理念をどのように評価するか、お答え願いたいと思います。
○吉澤説明員
御質問にございましたすべての移住労働者及びその家族の権利保護に関する国際条約でございますけれども、私ども、移住労働者とその家族の権利保護を図ろうとするこの条約の理念そのものは評価できるものであると考えておりますけれども、この条約を我が国が批准しようといたします場合には、移住労働者が国民あるいは移住労働者以外の外国人よりもかえって優遇される結果となって平等原則との関係で問題が生じないかとか、我が国の基本的な労働政策との関係、あるいは出入国管理、選挙、教育、刑事手続、社会保障といったいろいろな国内制度との関係においてどうかといった点を十分に慎重に検討をしなければならないのじゃないかと思っております。
なお、先生も御承知かと思いますけれども、これは九〇年の十二月に国連で確かに無投票で採択されたわけでございます。それ以来今日に至るまで、署名した国はメキシコとモロッコの二カ国だけである。それから、これの締約国となっている国は一つもないというような現状であることもまた我々として考えていかなくてはいけないという
ふうに考えている次第でございます。
○草川委員
この問題について、法務大臣というよりも政治家として、入管行政に携わっておみえになるわけですが、非常に難しい問題ではございますけれども、放置をするわけにはまいりません。人道上という問題もございます、あるいは国際的な責任ということもあるわけなので、私は少なくとも閣議等において総合的な対応をどこかで立てろというような御提言があってもしかるべきだと思うのですが、その点どのようにお考えになっておられるのか、お答え願いたいと思います。
○田原国務大臣
ただいままでの質疑を聞いておりまして、非常に感ずるところが多いわけであります。法務省の領域を超える部分が多うございますので、政治家としてという御指名でございますから政治家としてお答えしますが、ただ単に政治家として言っても実が実りませんので、やはり不法就労問題などで各省の会議がありますように実務の上へのせていく必要があるというふうに私は痛感しております。何らかのそういう行動をとってみたいと思いますので、そのようにまた先生からも御指導を賜りたいと思います。
○草川委員
ぜひそのような方向で臨んでいただきたいと思います。
前のページに戻る