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8月19日 京都新聞 「くらしの足元 自治を考える」
医療保険を持たない外国籍住民/治療費未納、増加の一途
補助、府は重い腰/不法就労など法的問題も
《リード》
医療保険を持たない外国籍住民の救急医療問題が、京都府内でもクローズアップさ
れている。無保険者は治療費が全額自己負担となるため高額で払えず、治療する病院
側の未収金も増える一万だ。外国人にとって「命にかかわる問題」だけに、市民団体
が支援活動を続け、府など行政に対し補助制度の創設などを求めている。だが、患者
には不法就労の人も多く、府は「支援するには、国がまず、法的に根拠を明確にする
必要がある」と腰が重い。府内の現状をルポする。
《本文》
京都市東山区の京都第一赤十字病院。一九九九年に建て替えが完成した新しい
A・B棟一階に医療社会事業部がある。「保険がない外国人の医療費関係は、こ
こが担当しています」と原城修副部長。
交通事故やお産、脳出皿…。緊急に運ばれてくる患者の中で、保険をもたない
外国人の医療費や治療の相談に応じるのがこのセクションだ。
原城副部長は、外国人未納患者一覧のコピーを示しながら「一九九三年ごろか
ら現在までに、これだけの人がいるんですよ」と説明する。
未納者リストには入院患者五十一人、外来十七人の名前が並ぶ。中国、韓国、
フィリピンなどからの人が多く、主に京都市内の在住者だ。一人当たりの医療費
の未収金額は数千円、数十万円などさまざまで、中には三百五十万円という高額
の人までいる。未収金の総額は約千七百五十万円にのぼる。
「住所を訪ねても、なかなか払ってもらえない。それに不法就労者の人も多
い」と原城副部長は頭を抱える。
同部で、実際に相談に応じているソーシャルワーカーの藤原久子さんは「でも、
放ってはおけないでしょう。命にかかわるんだから」といい、具体的な事例を挙
げてくれた。
昨年九月二十一日、中国籍の女性(五〇)が脳出皿の疑いで運ばれてきた。観光ビ
ザが切れた後も京都市内で働いている不法就労者だった。三週間ほど入院して、
かかった医療費は約九十八万円。女性には払えるだけの金はなかった。
また、今年四月には中国の女性(二〇)が、お産で駆け込んできた。聞くと、日本
語を学んでいる恋人(二〇)を追っかけて京都に来たという。「生まれた赤ん坊はい
らない。養子に出してほしいと言うんです。ほんと驚きました」。
藤原さんは、両ケースとも外国人を支援している市民団体「プレンダ会」 (伏
見区、代表・中村尚司龍谷大教授)に相談した。結局、最初の女性は医療費未納の
まま、六月に帰国。後者の場合は、京都市に頼み込んで出産費用四十万を支援し
てもらったという。
プレンダ会は、宇治市内の工場などで働いているうち、九一年にくも膜下出皿
で倒れたフィリピン人のプレンダ・ガルシアさんを支援する団体として発足し
た。募金で医療費を集め、ガルシアさんを帰国させ、その後も保険を持たない外
国人の支援活動を続けている。
中村代表は「募金などで資金づくりに努めているが、なかなか集まらない。
人道、人権面から行政は、支援制度を設けるべきだ」と訴える。
今年六月下旬、プレンダ会のメンバーが府庁を訪れ、外国人未払い医療費対
策事業の実施や外国人緊急医療の実態調査などを求めた。「東京都や兵庫県など
は独自の支援制度をつくっている。府も動くべきだ」と担当課に理解を促した。
日本に一年以上在住するなど、一定の要件を満たせば国保の適用が受けられる
が、問題になるのは、観光ビザなどが切れたまま日本で働く不法就労者のケース
が多い。府保健福祉総務課の中村実課長は「不法就労者に対する国の姿勢がまず
問題。支援に対し税金を使うことへの議論も必要になるだろうし、慎重に検討し
たい」と明言を避ける。
二〇〇〇年度の推計で、国内の不法残留者は二十三万人を超えるといわれ、医
療費を滞納するケースも増加の一途だ。
第一日赤の原城副部長は「民間病院などでは、いやがって断るところもある。
結局、日赤に回されてくるが、未収金が増えるばかりで、今度はうちがつぶれ
る」。
□ 市民からひとこと □
国際都市として はずかしい現状
プレンダ会にかかわる京都市伏見区、大学非常勤講師 河本尚枝さん(三五)の話
外国籍の人が、命にかかわるようなけがや病気で苦しんでいる時に、保険がない
からといって放っておけるでしょうか。人道上許されるはずがない。
国保の適用は受けていないが、この人々も日本で働き、税金を支払っている。
しかも、日本人がいやがる「3K」職場で日本人よりも安い賃金で働いている人
が多い。困った時に、助けるのは当たり前ではないか。
特に京都は国際都市として、世界にその名前が知られている。EU諸国では、
外国人の緊急医療で救済、支援する制度があり、日本でもいくつかの自治体で
は、独自の支援制度があると聞く。京都に支援制度がないのは、はずかしいと思
う。一日も早くこの問題を解決してほしい。
命が第一…だが、病院の負担は年々増加
独自支援の自治体も 抜本対策国に要望
外国人の医療費未払い問題が表面化する中、不法滞在を含め保険の適用を受け
ない外国人に対し、自治体として初めて支援策を打ち出したのは群馬県だった。
一九九三(平成五)年度から始めた「外国人未払い医療費対策事業」で、
実施主体は県国際交流協会。
県国保援護課によると、対象となる外国人は▽県内に居住し、医療保険の適用
を受けない人▽緊急的な医療が必要で、県内の医療機関で受診▽支払い能力がな
く、医療機関が一年以上、回収の努力をしても回収できなかった−などのケース。
申請を受け、審査の結果、認められれば、かかった医療費の七割を限度に医療機関
に補助する。
補助の実績をみると九九年度に初めて一千万円の大台に乗り、昨年度は千二
百八十九万二千円と、増加傾向にあるという。
ほぼ、同時期に神奈川県も「救急医療機関外国籍県民対策費補助事業」をスタ
ートさせた。
同県の場合は、県内の市町村で、外国人の未払い医療費の補助制度を設けてい
るところに支援するシステムで、市町村が払った費用の二分の一を補助する。
例年、県内の三十七自治体のうち十前後に適用されるという。これまで千二百
万円−千八百万円の実績があり、本年度の当初予算では補助費として千五百万円
を計上している。
このほか、埼玉、東京、千葉、兵庫県などが同様の支援制度を設けているが、各県
とも「本来は国の責務」として、抜本的な対策を国に求めている。
一方、医療機関の外国人による医療費の未収金は全国的に増加の一途をたどっ
ている。
各地の自治体病院でつくる全国自治体病院協議会の九九年度の調査によると、
加盟する千三病院のうち、六百三十五病院から回答があり、このうち三割近くに
あたる百八十四病院で未収金があった。
未収金の総額は一億九千百九十七万五千円で、七年前の調査に比べ、倍以上と
なっている。
こうした状況を受け九六年、当時の厚生省は、全国百六十カ所(現在百三十四
カ所)の救命救急センターを対象に、未払い医療費の一部を補助する制度を設け
た。
だが、一般の医療機関には適用されないうえ、「不法滞在者への医療費補助
は、結果として医療を受けるのを目的に入国することを助長しかねない。基本的
には入管の問題」というのが厚生労働省の立場とあって、現実に未収金の増加に
頭を痛める自治体や医療機関からの不満は強い。
取材を終えて
問われる行政の責任
外国籍住民の緊急医療問題を初めて知ったのは今年六月下旬。京都府庁の記者
クラブを訪れたプレンダ会の中村尚司代表からだった。府内でも不法就労の人が増え
ているとは聞いていたが、医療費の問題が、これほど深刻とは思わなかった。
保険を持たない外国人の救急治療を受け付けている第一日赤が、その現状を如実に
示していた。
「命が第一、お金が第二。でもね、他の病院は受け付けない。うちも慈善事業で
なく、経営もあるんです」。保険がないからといって追い返すわけにはいかず、膨
らむ一方の未収金に担当者は苦悩する。
しかも、患者の中には、初めから治療費を払う意思のない人もいる。「請求書を渡
した次の日に、病室から消えたケースもある」という。
華やかな国際交流が日の当たる部分とすれば、救急医療の問題はその陰といえよ
う。加えて不法滞在者は増加傾向にある。いつまでも市民団体や特定の病院だけに負
担を負わせるわけにはいくまい。国を含め行政の責任が問われている。
(社会報道部 下尾芳樹)