(依頼文)
都道府県知事 政令指定都市市長
(各自治体 福祉・衛生部局長充て送付)
移住労働者に対する医療諸制度利用に関する「政府見解」の市区町村配布のお願い
日頃,福祉および保健行政の推進に向けた貴職のご努力に対し,敬意を表します。
さて,1980年代後半から多くの外国人が日本に来日し国内で生活しているのはご存知のことと存じます。そして,そのような「ニューカマー」と呼ばれる滞日外国人(移住労働者)が,日々の暮らしの中で,病気になってしまった時、保険がないため医療費支払いに困ったり、労働災害にあっても適用できるはずの労災保険も利用出来ず「示談金」と引き換えに(あるいはそれすらもなく)解雇されたり、生活習慣の違いから日本人に差別されたりするといった事態がごく日常的に起きています。そして,私どもNGOの相談機関をはじめとする多くの窓口に、このようなの相談が多数寄せられるようになりました。
移住労働者とその家族の増加,およびこうした相談に対処するためには、既存の組織だけでは間に合わず、新たなボランティアの相談組織の立ち上げが,全国各地でなされました。そして,それらの機関が、全国的にネットワ−クを作り、情報を共有しつつ相談活動を進めることが問題解決にはより有効であるとの考えもあり,1997年『移住労働者と連帯する全国ネットワ−ク』(通称:移住連ネット)が発足しました。
移住労働者とその家族からの相談で、一番困難な問題は医療費支払いの問題です。ご存じのように1990年10月には、これまで日本人と同様に利用できていた「生活保護」が、定住者および永住者とその家族にしか利用できないものとなりました。1992年3月31日には,国民健康保険制度において、入国時点で1年以上のビザがなければ被保険者になることが出来ないという、法理論的には矛盾する通達が出されました。こうした流れが、移住労働者とその家族をますます医療機関から遠ざけています。そのため、診療抑制や,医療機関側の診療拒否,膨大な未払い医療費の発生などといった自体が日常化し,中には,売薬で済ませていたために病状が悪化し、生命が断たれる事態すらも発生する等,より深刻な状況が進行しつつあります。
こうした事態に対処するため、厚生省(現:厚生労働省)は1994年,外国人の医療費に関して、加藤一郎氏を座長とする『外国人に係る医療に関する懇談会』を発足させ、翌1995年7月「外国人の医療にかかわる懇談会報告」をまとめ公表しました。ここでは、それまでの厚生省の考え方が大きく変わったことが読みとれます。具体的には、一つは緊急医療に関しては諸制度利用の対象とするし、三次救急に搬送される患者については何らかの制度発足を国として検討する。第二は日本で生まれる子どもについては、親が非定住者であっても生まれた子どもの在留資格を問い制度利用を制限することは,人権上問題である,という新たな観点で貫かれていました。ただし、そのような観点が初めて出されたにもかかわらず、厚生省は「従来の見解を踏襲したにすぎない」見解であるので、新たな「通知」を発する必要はないとして、一切の文書見解を拒んできました。
しかし、このような報告書は限られた人しか目にすることはなく、全国の地方自治体では変わらず、諸制度の利用を拒んできました。このような実態に対し,移住連ネットとしては、何とか「通知」に相当する文書を国から出してもらえないか、という交渉を重ねました。そして,この件について国会議員の方々にも相談したところ、「質問主意書」というものを国会議員は政府に対して出すことが認められているとのことでしたので、質問に対しては正式に閣議決定の上、内閣総理大臣の名前で文書回答される、ということから,移住連ネットでは,この回答文書が通達に相当すると判断し、「質問主意書」の提出を依頼いたしました。そしてその答弁書は2000年5月26日付けで出されております。
本日お願いの趣旨は、同封させていただきました、この「質問主意書答弁書」の回答文書を、大変なお手間を取らせることを重々承知の上で、各市、区、町、村のご担当部署に配布いただけないかというお願いです。ご存知のように、「質問主意書答弁書」の回答は国会議員を除けばマスコミにしか流されず、全国の地方自治体に送達されることはないのです。このことを象徴するように、各地方のNGO組織から回答文書のコピーを持ちこんで初めて国の見解を知ったという自治体職員の声が、移住連ネットに所属する多くのNGOに届いています。
そもそも、このようなことは厚生労働省が責任を持って行うべきものであり,NGO組織が行政担当者の皆さんにお願いすること自体が、本末転倒なのかもしれません。しかし、事は人の生命にかかわっております。特に移住労働者とその家族は定住化の傾向を示しています。このような中、私どもは、一日も早くこのような文書が、地方自治体すべてに周知されることを心から願っています。そのような私どもの願いを十二分に御受けとめいただき、各市、区、町、村のご担当部署に配布いただきますよう重ねてお願い申し上げる次第です。
2002年3月31日
移住労働者と連帯するネットワーク共同代表
岩本光弘 大津惠子 丹羽雅雄 松井やより 村井敏 由井滋 渡辺英俊
連絡先:東京都文京区小石川2-7-41 冨坂キリスト教センター2号館203
電話03-5802-6033 Fax 03-5802-6034
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