4 不法滞在者の医療費未払問題


(1)医療費の未払問題

○ 我が国は国民皆保険体制となっていることから、患者は一般に窓口で医療保険の自己負担分を支払う(残余は医療保険から支払われる)こととなるが、不法滞在外国人など医療保険制度に加入していない者の場合には、医療費の全額を自分で支払うことから、1件当りの未収金額は外国人の方が日本人よりも高くなっている。

○ 外国人に係る医療の問題については、現行の諸制度の運用等を見直して、可能な解決方策を採っていくとしても、なお、医療費が未払いとなる事例はありうると考えられる。


(2)地方公共団体における事例

○ ここ数年、神奈川県(平成5年度)、群馬県(平成5年度)、千葉県(平成6年度)、埼玉県(平成6年度)、東京都(平成6年度)など、いくつかの都県において、外国人に係る医療費の未収金について、補填事業が行われている。

○ これらの措置の内容を見ると、基本的には、当該都県内に居住あるいは就労している外国人の救急医者であって、公的医療保険又は公的医療扶助の適用を受けないものに係る医療費について、医療機関側の債権回収努力を前提として、一定の範囲内で、主として民間医療機関に対して補填するという枠組みとなっている。


(3)対応の方向

○ 医療の提供と受診とは契約関係であり、診療を受けた場合には、患者は医療費を支払う義務を負うものである。
  したがって、医療機関における未収金は、基本的には民法上の債務不履行の問題であり、医療機関が可能な限り債権回収努力を行い、支払いを受けることが基本となる。

○ また、医療機関も一つの事業経営主体であって、ある程度の回収できない債権が発生することは一般論としてはありうることであり、その限りにおいては、当然には公的に措置すべき性格のものではなく、国民の税金をもって単純に肩代りするということについては、必ずしも国民の理解が得られるものとは思われない。

○ さらに、外国人に係る医療機関の未収金について、公費で肩代りすることになれば、財政的な負担が増大するだけでなく、事実上、外国人は容易に無料で医療を受けられることとなるが、これが結果的には不法滞在の助長につながるおそれがあるほか、費用負担をしないで医療を受けることを目的として入国するという事態を招くのではないかという懸念がある。

○ 一方、医療機関は、医療費の支払い能力がないからといって診療を拒否することはできない。
  医師法においては、医師の職務の公共性に鑑み、医師は「診療治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければこれを拒んではならない」(第19条)とし、診療に応ずる義務を定めている。ここに言う「正当な事由」とは、医師自身が病気であり診察できないなどの事態を想定したものであり、患者に支払能力がないことは診療を拒否する事由とはならない。
  とりわけ、生命に直結するような緊急かつ重篤な疾病・負傷の場合には、緊急の治療の必要性が高く、多額の費用を要する場合も多いことから、患者が医療費を支払えない事例が生ずるおそれがある。

○ この場合には、一定の回収努力を行っても回収できていない未収金であって一定の規模を超えるものについては、医療機関への過重な負担となるものと考えられ、これによって、もし、医業経営に支障が出ることとなれば、地域医療、とりわけ救急医療の円滑な運営にも悪影響が生ずることとなりかねない。

○ 外国人の滞在状況等については、かなりの地域差がみられ、問題状況も異なっている。地域によっては多くの外国人が居住し、あるいは地域の事業所で雇用されているところもある。この問題については、現に一部の地方公共団体において地域の実情に応じた取組みが行われているが、こうした取組みを行うことも一つの方法である。

○ また、救急医療制度の円滑な運営を確保する観点から、国としても何らかの対応措置を検討する必要がある。

○ この場合には、地域の実情に配慮して、地方における取組みを国が支援するという考え方を基本とするとともに、制度の濫用や不法滞在の定着の防止等を図る観点から、その範囲は緊急に必要とされる医療に止め、不法滞在外国人であることが判明した場合には、病状安定後は入国管理当局の適切な措置に委ねることのできる仕組みとしていく等の観点を踏まえて検討を行う必要がある。

○ また、身元の引き受けや医療費の支払い・立て替え、円滑な帰国等については、雇用主に対しても、その責任に応じた協力を求めることが必要である。
  なお、これに関連して、雇用主の協力を求める一つの方法として、「基金」のようなものを設定する考え方もあり得る。
  しかしながら、いかなる雇用主が資金を拠出するのか、産業界全体としての合意形成ができるか、医療費が補填されることになれば不法滞在を助長するおそれがある等の問題点があり、これれらの問題点を踏まえながら、今後、必要に応じて検討されるべきである。



5 関係各方面への要請

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